第16回 ~命の重み~あるホームレスの最後

こんにちは、筧です。ホームレス就職支援に関わってきたなかで、私には忘れられない、ある辛い出来事がありました。5年ほど前のことです。私が直接雇用を始めた初期の採用スタッフのなかにBさんという人がいました。Bさんは人懐っこい性格で誰とでもすぐ打ち解けては、仲良くなるような人。仕事の合間に見せる笑顔が印象的な男でした。

地方の現場に長期の派遣で入っていましたが、あるとき、工場長から連絡が入りBさんが体調不良で、このところ毎朝、現場に来ても通常の作業をまともにこなせないでいる状態だと知らされました。Bさん自身は、四十代半ばでまだまだ働き盛りの年齢、ちょっと具合が悪いだけで大丈夫だからと、長く勤めた現場を離れることを嫌がりましたが、自力で立つのも困難な状態となり、派遣先の近くで借りていた寮から本社に帰ってくることになりました。

帰ってきたBさんは、どす黒く、顔一面に黄疸がでていて、素人の私がみても病状が悪い事は明らかでした。医者に掛かるのは嫌だと拒否する彼を連れ、病院で診察を受けたところ、末期の肝硬変と診断されました。

就業不能な派遣スタッフを雇用し続けることは会社としては難しい。しかし、当時の彼は、住民票が削除され、健康保険の再加入も出来ていない状況でした。普通に医療にかかることが出来ない深刻さと、自分の就業支援の限界を痛切に思い知りました。

関連する3都市の行政に医療扶助や生活補助が受けられないか掛け合いました。どの行政の福祉担当者も「この人には、あなたという雇い主がいるので、身よりが全くない状態とは言い切れないのです。現にこうやって代理で相談に来られても、面倒を見る人がいるということで、行政が動くことは難しいですね・・・。」とままならない返事でした。

それでも、彼の病状は日に日に悪くなっていきます。一刻の猶予もなく、彼と相談して最後の最後に二人で決断したことは、「Bさんをもう一度ホームレスに戻す」という選択肢でした。「社長にこれ以上迷惑はかけられません。今日まで本当にありがとうございました。」と頭を下げるBさんと、二人で手を握りながら泣きました。

翌日、彼を車に乗せ、区役所の前まで抱きかかえるようにして連れて行きました。そして向かいの通りの物陰から、一本の電話をしました。「役所の前で倒れている人がいます!助けて欲しい。」出てきた職員に保護された彼を見届け、私はその場を離れました・・・。暫くして、彼が帰らぬ人となったことを聞きました。なぜもっと、もしもの時の備えをしてやれなかったのかと悔やみました。「仕事に戻りたい」と何度も言っていたBさんを私は結局救えませんでした。

                                            H23.7.21

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